【PACファンレポート61兵庫芸術文化センター管弦楽団 第139回定期演奏会】このところ大編成のオーケストラで迫力ある演奏が続いていた兵庫芸術文化センター管弦楽団(PAC)の定期演奏会。2月18日土曜に足を運んだ第139回、KOBELCO大ホールに入ると舞台中央にまとまるように置かれた小規模の楽器編成が久しぶりに新鮮だった。
この日の指揮はPACとは何度も共演しているユベール・スダーン。18世紀終わりから19世紀初めにウィーンで活躍した3人の作曲家の曲を、マエストロは慈しむように指揮棒も指揮台も使わずにスマートにリードした。
最初の曲はハイドン(1732-1809)の交響曲第6番。自身が「朝」という標題をつけた約24分の曲だ。指揮者の前に置かれたチェンバロの赤が華やか。オーストリアの貴族の館ではおそらくこんな趣で演奏されたのではないかと想像させるような優雅なひと時だった。
独奏ヴァイオリンと独奏チェロを含めて演奏者は全部で26人。金管はホルンだけ。イタリア出身のフルート(フランチェスカ・ブルーノ)とバスーン(エドアルド・カパルッチ)の間に2人のオーボエ(台湾出身のホァン・シーインと茨城県出身の山田涼子)が並んだ景色がいかにも国際色豊かなPACらしくて微笑ましい。
ソリストに大阪生まれの児玉麻里を迎えての演奏はベートーヴェン(1770-1827)のピアノ協奏曲第3番。ベートーヴェン弾きの名手といわれる児玉のドラマチックなピアノを誘うように打ち出されるティンパニ。
ティンパニの位置がいつもと違う上手で客席に近かったからか、開演前も演奏中も、入念にティンパニの皮の張り具合をチェックする古川翔也の姿が印象に残った。
児玉のアンコール曲はベートーヴェン「エリーゼのために」。演奏会ではあまり聞いたことがなかったが、誰もが知る名曲の美しい旋律を、鍵盤から宝物のように繰り出してくる児玉の姿が凛と輝いて見えた。
オーケストラの曲はシューベルト(1797-1828)の交響曲第8(9)番「ザ・グレイト」。3人の中では一番遅くに生まれた作曲家で、高校生だったころから私は、この3人の中ではシューベルトに一番心を惹かれていた。その理由が第4楽章の演奏を聴いて少しわかったような気になった。
シューベルトの曲にはスイング感があるのではないだろうか。それはある意味、ロックやジャズにも親しんでいる現代人にとってもわかりやすい曲ともいえるのかもしれない。観客の中にいた制服姿の一団は夙川中学校の生徒たち。芸術鑑賞会で訪れたという。終演後に感想を聞くと「どの曲もとても良かった!」と弾む声。生の演奏を聴いた時間は、かけがえのない喜びを味わわせてくれたようだ。
総勢66人のオーケストラの中に、何人かのPACのコアメンバーの姿がなかったのは、どこかへオーディションを受けに行ったのか。未来を目指し、成長し続ける演奏家たちに幸あれと願わずにはいられない。
コンサートマスターは田野倉雅秋。ゲスト・トップ・プレイヤーは、ヴァイオリンの大森潤子(元札幌交響楽団首席)、ヴィオラの柳瀬省太(読売日本交響楽団ソロ・ヴィオラ)、チェロの渡邉辰紀(東京フィルハーモニー交響楽団首席)、コントラバスの笠原勝二(元東京交響楽団奏者)、ホルンの青木宏朗(大阪交響楽団副主席)はPACのOBでもある。
PACのOB・OGはヴァイオリン5人、ホルンは青木を含めて2人、コントラバスとフルートが各1人参加した。(大田季子)